公開日 2026.10.20
教育学部 高屋 浩介 講師

クマ、オオサンショウウオ、トナカイ。
「生き物好き」が次世代へつなぐ研究
島根大学WEBマガジン
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物心がついたときから、ずっと生き物が好きでした。
大学時代にはアライグマを研究し、現在は島根でツキノワグマなどの野生動物を調査。モンゴルではトナカイの研究にも取り組みました。さらに、AIを使ったオオサンショウウオの個体識別や、自然の力をまちづくりに生かすグリーンインフラの研究にも取り組んでいます。
なぜ、これほど研究対象が幅広いのでしょう。その話をたどっていくと、原点にあったのは「動物が好きだから」という、とてもシンプルな答えでした。
野生の動物を追う研究から、自然環境、地域、そして教育へ。高屋先生の「好き」がどのように広がってきたのか、話を伺いました。
目次
「クマを研究したい」で北海道へ。ところが……

高屋先生に、生き物を好きになったきっかけを尋ねると、理由は自分でもわからないのだそうです。物心がついた頃には、もう生き物が好きでした。
高校3年生で進路を考えたときも、悩んだのは沖縄でマングースを研究するか、北海道でヒグマを研究するか。生き物の研究に進むこと自体には、迷いがなかったといいます。
選んだのは北海道。大学に入るとすぐにヒグマを研究する研究室を訪ね、調査を手伝いたいと申し出ました。

ところが、そこで知ったのは、クマを研究していても実際のクマにはなかなか出会えないということでした。危険な野生動物の研究は、遠くから行動を観察したり、食べ跡や足跡などを調べたりする地道な調査が中心です。想像していたよりも遥かに「地味」な研究に、一度は熱が冷めてしまったそうです。
転機になったのは、授業でアライグマの研究者と出会ったこと。北海道にも外来種としてアライグマがいると知り、そこからアライグマを研究するようになりました。
ちなみに、好きな動物ベスト3は、1位がアライグマ、2位がクマ、3位がシャチ。
オオサンショウウオの研究にも熱心に取り組んでいますが、ベスト3には入りませんでした。
修士課程修了後は、高校の理科教員として約6年間勤務しました。担任として多くの生徒と接する中で気づいたのは、やりたいことがはっきりしている人は、世の中では意外と少ないということ。
では、高屋先生自身をここまで動かしてきたものは何だったのでしょう。
「動物が好きだからですね」
森のカメラに残す、島根の「今」

現在の研究の軸は、「カメラトラップ」を使った野生動物の生態調査です。
カメラトラップとは、動物が前を通ると自動で撮影するカメラのこと。島根県内の森林に設置し、ツキノワグマなどの哺乳類が、いつ、どのくらい現れるのかを記録しています。
集まった画像から分析するのは、季節による違いや昼夜の活動パターン、場所ごとの動物相(*)。人口減少や人間活動の変化が、野生動物の分布や行動にどう影響するのかも研究対象です。
農業被害が課題となっているニホンジカについては、島根県中山間地域研究センターとの共同研究も進めています。

高屋先生が大切にしているのは、現在の島根の自然を記録として残すことです。
島根大学から少し車を走らせれば、海、湖、山、里山がある。生き物を研究するために、多様な環境が身近にそろっています。一方、県内で野生動物を研究する研究者は多くないといいます。
今集めているデータが、すぐに役立つとは限りません。
けれど100年後、200年後に島根の自然がどう変わったのかを考えるとき、比較するためには過去の記録が必要です。この100年間で何が変わったのか。それが分かれば、その先の変化を考える材料にもなります。
だからこそ、今の島根のデータを残し、次の世代へ渡していきたいと考えています。
高屋先生が島根で続けていきたい、大切な仕事の一つです。
(* 動物相:その地域に、どんな動物がいるのかをまとめたもの。 )

生き物を追う研究から、「環境そのもの」を考える研究へ
野外でクマの生態を追ったり、アライグマやカメを調べたりするのが一番好きだという高屋先生。現在は、個々の生き物を調べるだけでなく、その生き物が暮らす環境そのものを考える研究にも取り組んでいます。
その一つが、千葉県佐倉市などで取り組む「グリーンインフラ」の研究です。
グリーンインフラとは、ダムやコンクリートなどの人工物だけに頼るのではなく、森林や湿地、田んぼといった自然が持つ機能を社会の基盤づくりに生かす考え方。
例えば、森には雨水を蓄える働きがあります。湿地や田んぼも、水を一度受け止め、時間をかけて流す役割を果たします。こうした自然の力を活用することで、洪水などの被害を軽減できないかと考えます。
高屋先生は現在、東京大学と連携し、千葉県佐倉市でグリーンインフラの研究に取り組んでいます。住民へのアンケートを通して身近な自然への満足度やどの程度大切だと感じているかを調べ、地域ごとに必要なグリーンインフラの方向性を検討しています。
また、高屋先生が参加する研究チームは、内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の枠組みで進められ、佐倉市のほか、三重県いなべ市、東京都世田谷区でも実践されています。

一種類の動物だけを守るのではなく、その生き物が暮らす環境そのものを良くする。そうすれば、そこに暮らす多くの生き物にも良い影響が広がります。
自然を守ることを、一部の人の善意や活動だけで終わらせず、制度や仕組みにどう取り入れるのか。その判断材料となる根拠を示すことも、研究の役割です。
これまで野生動物の基礎研究に取り組んできた高屋先生にとって、地域の人々や社会と直接つながりながら研究を進められることも、この研究の面白さの一つだそうです。
オオサンショウウオの模様を、AIで見分ける

AIを使ったオオサンショウウオの個体識別も、高屋先生の「好き」から始まった研究です。
オオサンショウウオの個体を見分ける方法の一つに、小さなタグを体内に入れ、専用のリーダーで読み取る方法があります。ただし、確認するためには一度捕獲しなければなりません。
もっと手軽に、できれば生き物への負担も少なく調べられないか。
そこで目をつけたのが、一匹ずつ異なる体の模様でした。
高屋先生自身、何度も見ている個体なら、模様から見分けられるのだそうです。人の顔や指紋を機械が識別できるなら、オオサンショウウオの模様にも応用できるのではないか。そんな発想から研究を進め、画像を使った個体識別が可能であることを確かめました。
研究はさらに、日本のオオサンショウウオと中国由来のオオサンショウウオ、その交雑個体を画像から見分ける試みへと発展しています。
異なる種同士から生まれた個体には、繁殖能力がない場合があります。例えば、馬とロバから生まれるラバがその代表です。
ところがオオサンショウウオでは、交雑個体にも繁殖能力があり、さらに次の世代へつながることがあります。そのため、その地域で長い時間をかけて受け継がれてきた遺伝的な特徴にも影響します。
生物多様性は、「いろいろな種類の生き物がいること」だけではありません。同じ種類でも地域ごとに異なる遺伝的な特徴があり、そうした「遺伝的多様性」も大切な要素の一つです。
厳密に判定するにはDNA解析が必要ですが、画像からある程度見分けられれば、専門家以外が撮影した写真や、SNSに投稿された画像も調査の手がかりになる可能性があります。
そして、ここには単純に「外来種だから悪い」と言い切れない難しさもあります。
中国由来のオオサンショウウオは、日本では外来種として扱われる一方、中国では絶滅が危惧されている生き物です。
同じ生き物でも、場所が変われば、保護すべき存在にも、対応が必要な存在にもなります。生き物をめぐる問題は、単純に白か黒かでは決められない。高屋先生は、そんな話も学生にしているそうです。
トナカイを調べるため、モンゴルの大平原を駆ける
研究フィールドは、モンゴルにも広がっています。
参加したのは、気候変動が寒冷地域の自然や人々の暮らしに与える影響を調べるプロジェクト。モンゴル北部には、トナカイを家畜として飼い、生計を立てる人々が暮らしています。
気温が上がれば、トナカイが食べる植物の種類や育つ時期が変わるかもしれません。それは、いつ、どこで放牧するのかという人々の暮らしにも関わります。変化してしまった後では、以前の状態を調べることはできません。そこで高屋先生たちは、トナカイが何を食べ、どのように放牧されているのかを、変化の途中にある今から記録しています。
モンゴルでの滞在は約10日間。ウランバートルから約800キロを車で移動し、舗装路がなくなった先をさらに進みます。やがて車で走れる道もなくなり、最後は馬に乗り換えて4〜5時間。
出発前には楽しみにしていた乗馬でしたが、長時間となると想像以上に過酷だったそうです。さすがに4〜5時間の乗馬はきつく、「修行」のようだったと高屋先生は振り返ります。
トナカイを調べるには、その餌となる植物も見なければなりません。植物の変化には気候が関わり、それは放牧する場所や時期にも影響します。
トナカイの研究は、そこで暮らす人々の生活まで含めた調査につながっています。
電気柵をくぐるクマから考えるコト
野生動物の研究者であると同時に、高屋先生は教育学部で、教員を目指す学生の授業や卒業研究の指導にもあたっています。そこで大切にしているのが、生物学的、科学的なものの見方です。
取材中に例として登場したのが、北海道のクマでした。
畑などへの侵入を防ぐために設置された電気柵。その下に穴を掘り、くぐって中へ入るクマの事例があるといいます。
これまで有効だった方法に対して、クマもまた経験を積み、行動を変えていく。哺乳類には、学習によって行動を変えられる面があります。
生き物には、生まれ持った性質のように変わりにくい部分がある一方で、環境や学習によって変わる部分もあります。高屋先生は、こうした生物学の見方は、教育を考えるうえでもヒントになると話します。
変えにくい部分があるからといって、何もできないわけではありません。環境や学習によって変えられる部分に働きかけること。そこに教育の役割があると考えています。
また、目の前で起きていることをよく観察し、思い込みではなく根拠をもとに考えることも大切です。高屋先生は、生物学を通して培うこうした科学的なものの見方を、これから教壇に立つ学生たちにも身につけてほしいと考えています。
飲み会よりアライグマを選んだ学生時代

最後に、学生へのメッセージを聞きました。
高屋先生が挙げたのは、学生時代に持てる「時間」の貴重さです。
社会に出れば仕事があり、さまざまな役割も増えていきます。体力もあり、自分で一日の使い方を決めやすい学生時代は、その意味で特別な期間なのだといいます。
もちろん、何をすれば正解なのかは人それぞれです。
高屋先生自身は、飲み会よりもアライグマの調査を選ぶ学生でした。今振り返れば、もう少し遊んでおけばよかったと思うこともあるそうです。それでも、それほど夢中になった時間が、現在の研究につながっています。
「それを生かすも殺すも自分次第なので、無駄にはしてほしくないなと思います」
大学生の頃はアライグマに夢中になり、今ではクマやオオサンショウウオ、トナカイまで研究対象が広がりました。けれど、その始まりはずっと変わっていません。
“動物が好きだから”
PROFILE
高屋 浩介(たかや こうすけ)
島根大学教育学部 理科教育専攻 講師。専門は動物生態学・保全生態学。
京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了。博士(農学)。
高校の理科教員として約6年間勤務した経験を持つ。
カメラトラップを用いた野生動物の生態調査を中心に、AIを用いたオオサンショウウオの個体識別、グリーンインフラ、モンゴルにおけるトナカイの餌資源評価など幅広いテーマを研究。野生動物の生態だけでなく、生物多様性と人や地域との関わりについても研究を進めている。

ShimaDAYライター
りなぴィ島根県松江市のデザイン会社勤務。
趣味はドライブと散歩。天気のいい日はいい景色や美味しいもの、ご当地ソフトクリームを求めて出かけることも。散歩中に市内の新しいお店や景色を見つけるのが楽しみ。

りなぴィ
島根県松江市のデザイン会社勤務。趣味はドライブと散歩。天気のいい日はいい景色や美味しいもの、ご当地ソフトクリームを求めて出かけることも。散歩中に市内の新しいお店や景色を見つけるのが楽しみ。







