公開日 2026.08.26
特別座談会「防災リスクコンサルティングとダイバーシティ」

「やってみたい」が、未来を広げる。
防災の現場から考える、自分らしい進路の見つけ方
島根大学WEBマガジン
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「面白そう」「やってみたい」。その気持ちが、思いがけない未来につながることがあります。
今回、島根大学で開催された座談会では、防災リスクコンサルティングの最前線で活躍する卒業生と本学教員が、防災の仕事のやりがいや理系分野の魅力、そして多様な視点をもつことの意義について語り合いました。
それぞれの経験談から見えてきたのは、自分の可能性を自ら狭めたり決めつけたりせず、まずは一歩踏み出してみることの大切さでした。
目次
「面白そう」から始まった理系への道
――現場でしか見えない景色がある
座談会は、島根大学総合理工学部を卒業し、現在は応用地質株式会社で防災リスクコンサルティング(※1)に携わる味野さんの話から始まりました。
地質や防災に関する仕事の第一線で活躍する味野さんですが、実は高校生の頃に興味を持っていたのは生物分野だったといいます。
[※1 自然災害の危険性を調査・分析し、被害を防ぐための対策を提案する仕事。]

そんな味野さんが地質学へ進んだきっかけは、子どもの頃から好きだった「石」でした。
進路を考える中で地質学という学問に出会い、さらに島根大学で行われている実践的なフィールドワーク(実際に現地へ足を運んで調査・観察する学び)に魅力を感じたことが、進学を決める後押しになったそうです。
「面白そう」という純粋な好奇心から地質学の道へ進んだ味野さん。
フィールドワークでは、実際に山へ分け入り、自分の足で歩きながら地形や地層を観察します。教科書では分からない、現場ならではの発見や感動があることも、この分野の大きな魅力です。
地形の情報を頼りに山中を歩くフィールドワークは、想像していた以上に大変だったそうです。
それでも、予想していた地層が実際に目の前に現れた瞬間の喜びや達成感、自然の中でしか得られない数々の発見が、味野さんをさらに地質学の世界へと引き込んでいったといいます。
現在は、防災リスクコンサルティングの仕事に携わり、土砂災害や地震などの自然災害に備えた調査・分析を行っています。
航空レーザー測量(※2)をはじめとする先端技術の活用によって、山の地形をこれまで以上に詳細に把握できる時代になりました。しかし、どれだけ技術が進歩しても、最終的には現場に足を運び、自分の目で状況を確かめることが欠かせません。
地図には表れないわずかな地形の変化や地盤の状態など、現地に入ってこそ把握できることも多いからです。
[※2 LiDAR(ライダー):航空機からレーザーを照射し、地形を立体的に計測する技術]

調査の対象は山だけではありません。道路や橋梁、トンネルなど、私たちの暮らしを支える社会インフラの整備にも携わり、安全・安心な社会の実現に貢献しています。
工事中のトンネルでは、掘り進めた先の地質を確認し、安全に工事を進められるかどうかを判断します。
橋の基礎調査や海中での調査を担当する技術者もおり、中には潜水士の資格を取得して活躍する人もいるそうです。
そのスケールの大きな仕事ぶりに、座談のメンバーから「まるで『プロジェクトX』ですね」との声が上がり、味野さんをはじめ全員、笑みがこぼれる場面もありました。
一方で、災害に関わる現場では緊張感が伴う仕事も少なくありません。
大雨の後、崩落の危険がある斜面へ入り、安全を十分に確保しながら調査を進めることもあります。実際、調査結果から危険性が高いと判断して対策を講じた現場では、その後、本当に斜面が崩落したケースもあったそうです。
道路は被害を受けたものの、その先にあった施設への影響は未然に防ぐことができたといいます。
味野さんの話からは、人々の命や暮らしを守る仕事の重みと、その社会的な意義が強く伝わってきました。
子どもの頃からの「石」への興味と「面白そう」という素直な好奇心から始まった学びが、今では人々の安全・安心な暮らしを守る仕事につながっています。
防災は、「人」を知る仕事

防災というと、地震や豪雨に備えるための堤防や道路、地盤調査などのハード面の整備をイメージしがちです。
しかし、座談会で繰り返し語られたのは、「防災は人と暮らしを守る仕事でもある」ということでした。
味野さんは、調査を進める中で、地域住民の方々から話を聞く機会が数多くあるといいます。
「昔、このあたりで土砂崩れがあった。」
「大雨が降ると、この場所に水が集まる。」
長年その土地とともに生きてきた人の声は、調査や災害対策を考えるうえで貴重な手がかりになります。
地図やデータだけでは捉えきれない地域の実情が、現場にはあります。だからこそ、防災リスクコンサルティングに求められるのは、専門的な知識や技術だけではありません。地域の人々と信頼関係を築き、丁寧に対話を重ねながら、その土地の特性や暮らしを知ることも、重要な仕事です。
話題は、災害発生後の避難所運営へと移ります。
金山理事は、「安全」と一口に言っても、その感じ方、捉え方は人によって異なるのではないかと指摘しました。

例えば、小さな子どもを連れた保護者、高齢者、障がいのある方、妊娠中の方など、それぞれに置かれた状況は違います。
避難所では、トイレや授乳スペース、更衣場所など、実際に生活する人の目線で考えることも大切になります。
安全を考えるうえでは、多様な立場からの視点が欠かせないという意見も交わされました。
性別や年齢、個々の立場によって、避難生活の中で抱える不安や困りごとも大きく異なります。
だからこそ、多様な人々が防災に関わることで、一人では気付けなかった課題やニーズが見えてきます。
味野さんも、自身が二次被災を経験したことで、「命を守る」だけではなく、「その後の生活や暮らしをどう支えるか」という視点の大切さを強く実感したと語りました。
災害への対応は、避難して命を守ることで終わるわけではありません。
その後も安心して生活を続けられる環境を整え、暮らしの再建を支えることも、防災の大切な役割です。
「大きな予算をかけなくても、視点が一つ増えるだけで改善できることがあります」と味野さんは話します。
その言葉には、防災は特別な誰かだけがつくるものではなく、多様な立場の人が意見や知恵を持ち寄ることで、実効性のあるより良いものになっていくという思いが込められていました。
防災は、災害を調べ、備える仕事であると同時に、何よりも、その先にいる「人」の命と暮らしを守る仕事でもあります。
「向いていない」は、本当に自分の気持ち?
防災の仕事には、多様な視点が欠かせません。
では、その多様な人材は、どのように育っていくのでしょうか。
座談会の話題は、高校生が進路を選ぶときに直面する「文系・理系選択」へと移りました。
亀井先生は、中学生の頃までは理科や数学に興味を持つ女子生徒は決して少なくないと話します。

しかし、高校で文系・理系を選択する段階になると、理系を選ぶ女子生徒の割合は減少する傾向があります。
その背景にあるのは、「数学が苦手だから」というような単純な理由だけではありません。
「理系は男性が多い。」「女性には難しそう。」
こうした社会に根付くイメージや、周囲の何気ない言葉が、知らず知らずのうちに進路選択へ影響を及ぼしていることがあります。
これは「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込みや偏見)」と呼ばれるものです。
誰かが悪意を持って発しているわけではありません。
「女の子だから文系の方が向いているかもしれない。」「理系は大変そうだから。」
そんな何気ない一言を繰り返し耳にすることで、本人も気付かないうちに「理系は自分には向いていないのかもしれない」という意識が生まれ、可能性を限定してしまうことがあるのです。

金山理事は、自身の学生時代を振り返りながら、「昔は今以上に、性別による役割分担のイメージが強かった」と話します。
一方で、社会は大きく変化しています。
AIやデジタル技術の発展により、仕事の内容も働き方も多様化しています。
かつては体力が重視されていた仕事でも、技術の進歩によって性別を問わず活躍できる場面が増えています。
ところが、「男性の仕事」「女性の仕事」という昔からのイメージだけは今なお残り、その固定概念が、知らず知らずのうちに進路や職業の選択肢を狭めてしまう場面は少なくありません。
また、地方では特に、保護者の影響も大きいといいます。
子どもの将来を思ってかけた言葉であっても、それが結果的に、本人の可能性に枠を設けてしまうこともあります。
だからこそ大切なのは、「女性だから」「男性だから」という枠組みで考えるのではなく、「自分は何に興味を持っているのか」「何を面白いと感じるのか」という素直な気持ちに向き合うことです。
「向いているかどうか」は、挑戦してみなければ誰にも分かりません。
最初から「自分には無理」と決めつけるのではなく、実際に見て、話を聞き、自ら体験してみる。その小さな一歩が新たな経験と自身の可能性との出会いにつながり、自分らしい進路を見つける扉を開いてくれるのかもしれません。
出会いが、未来の選択肢を広げてくれる
「向いているかどうか」は、やってみなければ分からない。
では、その一歩を踏み出すきっかけは、どこにあるのでしょうか。
丸山先生は、「人との出会い」が進路選択に与える影響の大きさについて話しました。
島根大学では、女子中高生が理工系分野をより身近に感じられるよう、理工系の女子学生を中心とした「SUN'IN Girls」の活動を展開しています。

「SUN'IN Girls」は女子中高生の「お姉さん」であり、ロールモデルです。研究室の見学や体験イベント、研究者との交流会などを通して、「理系って面白そう」と感じるきっかけづくりをサポートしています。
活動の中で大切にしているのは、「一人で頑張る」のではなく、「仲間と出会い、つながる」こと。
初めて参加するイベントには、誰でも少なからず不安や緊張を感じるものです。しかし、同じ興味を持つ仲間と一緒なら、その一歩を踏み出しやすくなります。
参加者からは、「一人では参加しづらかったけれど、友達がいるから一歩も二歩も踏み出せた。」という声も少なくないといいます。
実際に活動へ参加した学生が新しい仲間と出会い、その後も交流を続けたり、高校生が大学生に進路について気軽に相談したりするなど、少しずつ新しいつながりが生まれています。
味野さんも、自身が学生だった頃を振り返り、「当時は女性の先輩が少なく、正直、理系で学んだ先の、将来の自分の姿をイメージしにくかった」と話しますが、今は、味野さんが女子中高生にとっても「SUN'IN Girls」にとっても、素敵なロールモデルです。

現在は、研究者や技術者として活躍する女性も増え、その働き方や生き方も多様になりました。
子育てをしながら研究に取り組む人、地域活動に力を注ぐ人、企業の第一線で活躍する人など、その姿もさまざまです。
新たなロールモデルと出会い、一つではない生き方を知ることで、「こんな将来もあるんだ」「こんな働き方もできるんだ」と自分の未来をより自由に思い描けるようになります。
金山理事も、「実際に活躍している人と出会うことには、大きな意味がある」と話します。
パンフレットやインターネットだけでは伝わらないことがあります。
どのようなきっかけでその道を選んだのか、壁にぶつかったときにどう乗り越えてきたのか……そんな等身大の話に触れることで、「特別な人だからできた」のではなく、「自分にも挑戦できるかもしれない」と感じられるようになるのです。
そして、「やってみたい」と思ったときに、その気持ちを後押ししてくれる人や環境があることもまた、大きな支えになります。
「面白そう」と思った気持ちを、大切に
最後に皆さんから、島根大学で学ぶ学生や、これから進路を考える中高校生へメッセージをいただきました。

味野さん
「向いているかどうかは、やってみないと分かりません。私自身も、『面白そう』という気持ちから地質学を選びました。まずは興味を持ったことに挑戦してみてほしいです。」
金山理事
進路を選ぶときは、自分の思いに素直であってほしいと語ります。
「性別という枠をこえて、自分は何に興味があり、何をやってみたいと思うのか。その問いを大切にしてください。」
丸山先生
人との出会いが、新しい可能性を広げてくれると語ります。
「大学には、さまざまな人と出会える機会があります。研究室やイベント、地域での活動など、少し勇気を出して参加してみることで、新しい世界が見えてくるかもしれません。」
亀井先生
「最初から正解を見つけようとしなくても大丈夫。興味を持ったことに触れながら、自分に合う道を少しずつ見つけていけばいいんです。」
「面白そう」
「やってみたい!」
座談会を通して繰り返し語られていたのは、その気持ちを大切にしてほしいというエールでした。
自分には向いていないと決めつけず、まずはやってみる。踏み出したその一歩が、自分でも気づいていなかった可能性を見つけるきっかけとなり、まだ見ぬ未来を切り拓く原動力になるかもしれません。
参加者
味野 晴佳
総合理工学部地球資源環境学科卒業生
応用地質株式会社 北信越支社
防災リスクコンサルティング部主担
技術士補(応用理学部門)
金山 富美
島根大学理事(内部統制担当)/ダイバーシティ推進室長
亀井 淳志
島根大学総合理工学部長
丸山 実子
島根大学地域未来協創本部
人材育成・キャリアデザイン部門長・准教授/ダイバーシティ推進室員

ShimaDAYライター
まつD島根県出身のクリエイティブ・ディレクター。
日々日々映像の世界にダイブしている映画ジャンキーなので慢性的寝不足。
島根を愛し、島根に愛されるオトコを目指して今日も様々なPR案件にチャレンジしている。

まつD
島根県出身のクリエイティブ・ディレクター。
日々日々映像の世界にダイブしている映画ジャンキーなので慢性的寝不足。
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