公開日 2026.08.03
社会医療法人清和会 西川病院精神科デイケア来夢 川越 万里名 さん

「ニガテ」を知っているから、寄り添える。
支えられた経験を、支える力へ
島根大学WEBマガジン
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島根大学人間科学部を卒業し、現在は精神保健福祉士として働く川越万里名さん。
「苦手なことから逃げずに挑戦してきたことが、今につながっています。」
自分自身の特性と向き合いながら、一歩ずつ経験を積み重ねてきた川越さん。支えられる側だった経験は、今の仕事へとつながっています。
「自分らしく働く」とは、どういうことなのか。
学生時代の挑戦から現在の仕事、そして将来への思いまで、お話を伺いました。
目次
一人ひとりに合った寄り添い方を考える
2025年に島根大学人間科学部を卒業した川越万里名さんは、現在、県内の精神科デイケアで精神保健福祉士として働いています。
仕事では、利用者一人ひとりの背景や思いに寄り添いながら 、医療や福祉の専門職、地域の関係機関と連携し、その人らしい暮らしを支えるための支援に取り組んでいます。
仕事をする中で、大切にしていることを尋ねると、川越さんはこう話します。
「医療目線で同じ課題を抱えていたとしても、その人が置かれている状況は一人ひとり違います。」
就職を目指す人もいれば、生活リズムを整えることから始める人もいます。
だからこそ川越さんは、その人にとって何が必要なのかを、利用者と一緒に考えながら支援にあたっています。
「まだ分からないこともたくさんあります。だからこそ、自分だけで判断せず、先輩方に相談しながら支援方法を考えることを大切にしています。」
利用者一人ひとりと向き合いながら、川越さんは日々少しずつ経験を積み重ねています。
「弱み」を隠さないという選択

実は、川越さん自身も発達障害の当事者です。
就職活動では、自身の障がいについて職場へ伝えたうえで働くことを選びました。
その準備の中で取り組んだのが、自分の特性や必要な配慮を整理する「サポートブック」の作成です。
自分の得意なことや苦手なこと、安心して働くために必要な配慮を整理し、職場へ伝えるための資料です。
しかし、その作業は決して簡単なものではありませんでした。
「自分の苦手なことを改めて書き出すのは、すごく苦しかったです。」
特に迷ったのは、「パニックになると涙が出てしまうこと」を書くかどうかでした。
「こんなことを書いたら、弱い人なんだと思われるんじゃないか。」
そう考えるたびに、書き進める手が止まったといいます。
それでも、発達障害者支援センターの相談員と一緒に、自分にはどんな困りごとがあるのか、どんな配慮があれば力を発揮できるのかを、一つひとつ整理していきました。
「今振り返ると、あの時間は必要だったと思います。」
自分自身を知ることは、自分を否定することではありません。
自分らしく働くために何が必要なのか。
その答えを見つめ直す、大切な時間になったと話します。
支えられることも、支援の力に

就職して間もないころのことです。
利用者との関わりや仕事の難しさに戸惑い、気持ちがいっぱいいっぱいになってしまうことがありました。
思うようにできない自分を責め、涙が止まらなくなることもあったと振り返ります。
そんな時、職場の先輩はこう声を掛けてくれました。
「少し休憩しておいで。」
「泣くことは悪いことじゃないよ。」
その言葉に、川越さんは少し肩の力が抜けたといいます。
それまで、涙を流してしまう自分を否定的に捉えていました。
でも、そのままの自分を受け止めてもらえたことで、自分自身への見方も少しずつ変わっていきました。
予定を忘れやすいことなども職場へ伝えています。
そのため、周囲が予定や仕事の進み具合を一緒に確認してくれることもあり、安心して仕事に向き合える環境があります。
「支えてもらえる環境があることが、本当にありがたいです。」
支援する側でありながら、自分自身もまた周囲に支えられてきました。
支えられた経験は、利用者一人ひとりと向き合う今の姿勢にもつながっています。
苦手だからこそ、挑戦した学生時代。

学生時代の川越さんは、人とのコミュニケーションが得意ではありませんでした。
だからこそ、あえて人と関わるアルバイトを選んだと話します。
「福祉の仕事を目指すなら、このままではいけない。」
そう考えた川越さんは、人と関わる環境へ飛び込むため、あえて人と接するアルバイトに挑戦しました。
障がいのある子どもたちが利用する施設でのアルバイトをはじめ、学童保育や養護学校での活動など、さまざまな現場を経験しました。
最初は緊張して思うように話しかけられず、失敗することも少なくありませんでした。
それでも、職員からアドバイスを受けながら少しずつ経験を重ねるうちに、「次はこうしてみよう」と前向きに考えられるようになったといいます。
「挑戦するたびに、自分の経験値が少しずつ増えていく感覚がありました。」
できなかったことが、少しずつできるようになる。
その積み重ねは、コミュニケーションへの自信だけでなく、人との関わり方を学ぶ貴重な時間にもなりました。
学生時代に積み重ねた経験は、今の仕事にも確かにつながっています。
大学での学びが、今につながる。
川越さんは、大学での学びを振り返りながら、「現場を知る機会が多かったことが今に活きています」と話します。
実習では、利用者や支援者と向き合い、教室では得られない多くの経験を積みました。
また、先生方が自身の経験を交えながら語ってくれた言葉も、印象に残っているといいます。
授業で学んだ制度や支援の考え方は、社会人になった今だからこそ、その意味を実感する場面が増えたそうです。
「学生の頃は分かったつもりで聞いていたことも、実際に働いてみると、『あぁ、本当はこういうことだったんだ』と思う場面がたくさんあります。」
大学で得た知識だけではなく、人との出会いや実習、アルバイトで積み重ねた経験の一つひとつが、今の支援の土台になっています。
「教室の中だけでは得られない経験が、自分の視野を広げてくれました。」
大学で過ごした時間は、精神保健福祉士として歩み始めた今も、大きな支えになっています。
当事者だからこそ伝えられること

今後挑戦したいことを尋ねると、川越さんは少し考えながら、将来の目標について話してくれました。
まずは、今の仕事を一人前にできるようになること。
その先に見据えているのが、「ピアサポート」です。
「ピアサポート」とは、同じような経験をした当事者が、その経験を生かして同じ立場の人を支える活動です。
川越さんは、当事者だからこそ話せること、伝えられることがあるといいます。
「今は職場でも限られた人しか私の障がいについて知りません。でも、いつかは自分の経験を必要としている人に伝えられたらと思っています。」
もう一つ、川越さんが強い思いを寄せているのが、本人だけでなく、その家族への支援です。
障がいのある家族とともに過ごしてきた経験から、本人だけでなく、本人と最も関係性が深いご家族にも支援が必要だと感じてきました。
特に、障がいのあるきょうだいを持つ子どもたちは、自分の気持ちを安心して話せる機会が少ないといいます。
「本人だけではなく、家族にも安心できる時間や居場所が必要だと思っています。」
自分自身の経験があるからこそ見えてきた課題があります。
だからこそ、いつかは家族支援にも携わりたい。
その思いは、支援者としてだけではなく、一人の当事者として歩んできた経験から生まれたものでした。
自分らしさは、きっと誰かの力になる。

取材の最後、島根大学で学ぶ学生や、これから大学を目指す高校生へのメッセージをお願いしました。
川越さんは少し考えた後、穏やかな表情でこう話します。
「大切なのは、苦手なことから目を背けるのではなく、自分自身を知り、向き合うこと。そして、一人で抱え込まないことだと思います。 もし一人では難しいと感じたら、先生や身近な人、大学や地域の相談機関など、頼れる人を頼ってほしいです。」
学生時代、一人では乗り越えられなかったことも、先生やアルバイト先の職員、支援機関など、多くの人に支えられてきました。
だからこそ今、自分も誰かを支える仕事ができているといいます。
「少しでも興味があることがあれば、挑戦してみてほしいです。私も学生の頃は、自分にできるのかなと不安でした。」
うまくいくことばかりではありません。
失敗することもあります。
それでも、その経験は決して無駄にはならないと川越さんは話します。
一歩踏み出した経験は、自分自身の視野を広げ、自信にもつながる。その歩みがやがて誰かを支える力にもなっていく。
自分自身と向き合いながら、そして周囲に支えられながら、一つひとつの経験を積み重ねてきた川越さんの「経験」は、これからも多くの人に寄り添う力へとつながっていくのでしょう。
PROFILE
川越 万里名(かわごえ まりな)さん
2025年、島根大学人間科学部人間科学科卒業。
在学中は福祉を学びながら、実習やアルバイトなどを通して現場経験を積み、人と向き合う力を育んだ。現在は精神保健福祉士として、大学での学びや自身の経験を生かし、一人ひとりに寄り添う支援に携わっている。

ShimaDAYライター
りなぴィ島根県松江市のデザイン会社勤務。
趣味はドライブと散歩。天気のいい日はいい景色や美味しいもの、ご当地ソフトクリームを求めて出かけることも。散歩中に市内の新しいお店や景色を見つけるのが楽しみ。

りなぴィ
島根県松江市のデザイン会社勤務。趣味はドライブと散歩。天気のいい日はいい景色や美味しいもの、ご当地ソフトクリームを求めて出かけることも。散歩中に市内の新しいお店や景色を見つけるのが楽しみ。







