公開日 2026.04.01

教員・研究者紹介

材料エネルギー学部 材料エネルギー学科 戸井田 さやか 講師​

細胞の中へ薬を届ける
材料工学で支える未来の医療

島根大学WEBマガジン
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 ものづくりには欠かせない材料の研究・開発を行う「材料工学」。島根大学材料エネルギー学部においても、金属、無機材料、有機材料など、さまざまな材料を対象にした研究や開発が行われています。その一つが、生体に直接接触させても安全に使える材料を創り、病気の治療や診断のツールを開発する「バイオマテリアル(生体材料)」。材料工学と聞くと機械や設備の材料をイメージしがちですが、人体に取り入れ健康や病気に対してアプローチしていくバイオマテリアルに関する研究もまた、材料工学の主たる分野なのです。

 そのバイオマテリアルを専門とする戸井田講師が長年取り組んでいるのが、薬を体内の必要な場所・量・時間で送り届ける「ドラッグデリバリーシステム」という技術。「より効果的かつ効率的に薬を体内の届けたい部位に送り届ける技術を開発することで病気の治療法の発展に貢献できれば」と、これまで研究を進めてきました。実は、従来の方法で薬を細胞の中に取り込ませたい場合には、薬が細胞内に上手く入らず、そのため十分に作用できないことがあるといいます。この問題を解決することができる可能性を持つのが、細胞内へのドラッグデリバリーシステムです。3年前、島根大学材料エネルギー学部に着任した戸井田講師は、大学院時代の恩師でもある同学部の森本展行教授との共同研究で、細胞内の目的の場所に届く高分子を用いてミトコンドリアの非常に細かい構造の可視化に成功しました。

 

 現在は、この研究を発展させて、この高分子に目的の薬を修飾することで、薬の効果を高められないかと研究をしている最中。「例えば肝臓がんであれば、抗がん剤を肝臓にだけ、必要量を届けることができるようになる。これによって髪が抜ける、手がしびれるといった副作用を軽減しながら、より高い治療効果を得られるようになる。その可能性を追求しています」。
 バイオマテリアルに興味を持ったのは、大学1年生の頃。授業でバイオマテリアルという存在を知った戸井田講師は、元々医学の道を目指していたこともあって、医学と工学の融合に興味を持つように。次第に「人の健康や病気の治療に結びつくものづくりがしたい」と考えるようになり、大学院ではバイオマテリアルを専攻しました。博士号取得後は、海外留学を経て生体材料を開発するには医学の知識も必要との思いから、医学部の研究室の研究員として勤務。民間企業での研究開発職を経て、「大学の研究室や民間企業など、さまざまな環境で研究を行ってきた経験は私の強み。こうした働き方のケースも含めて学生に伝えられるのでは」と島根大学に着任しました。
 「自分たちが設計した高分子によって新しい治療法の可能性が広がるかもしれない。患者さんに貢献できるかもしれない。そう思うと、やりがいは大きいです」と戸井田講師。「失敗のほうが多いんですけどね」と苦笑しつつも、これからもがんや神経疾患をはじめとする人の疾患を対象として研究を続けたいと話します。
 今年度で4年目となる材料エネルギー学部には、3名のバイオマテリアルを専門とする先生方が在籍しています。「医療に貢献したいと考えた時に、特に女性は医学や薬学の分野を目指す人が多いように思います。私自身もそうでしたが、工学の分野からも医療の進歩を支えることができるんだと知ってもらうことでバイオマテリアル、そして材料工学に興味を持つ人が増えると嬉しいですね」と語る戸井田講師。研究の成果が一人でも多くの患者さんの未来を変えることにつながれば。その思いを胸に日々実験を重ね、材料の力で医療の未来を切り拓く挑戦は、これからも続きます。

※本記事は、以前に広報しまだい60号(2025年4月号)で公開された記事をもとに再掲載しています。

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