公開日 2026.04.01
特別鼎談「島根大学とSDGs」

課題先進地・島根から
世界の未来を変える
島根大学WEBマガジン
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地球規模の危機が深刻化しているなか、本学は「持続可能な未来」への挑戦を続けています。大学が果たすべき社会的使命と人づくりの可能性について、大谷学長、河野副学長、SDGs担当の松本先生が語り合いました。
目次
このままでは、次の世代にバトンを渡せないという危機感

大谷 豊かな自然や文化に恵まれた日本では実感しにくいのですが、実は私たちの文明が、地球の限界を脅かし始めています。典型的な例が、AIです。非常に便利で役に立つ一方、自律的致死兵器のように、人間の意図を超えてターゲットを殺めうるレベルに達しているものも既に存在し、AIが人間の知能を超える転換点が刻一刻と迫っています。核の問題も同様です。今、真剣に〈持続可能な未来〉について考えなければ、この先の世代にバトンを渡せるかどうかが危機的な状況になってきています。

松本 振り返ると、SDGs(※1)が生まれたのも、21世紀に入り『世界が平和で豊かな状態を目指すためには、どうすればよいか』を国連で話し合ったことがきっかけでした。実はSDGsの前身には、MDGs(※2)という、2000年から15年間をかけて達成すべき8つの目標がありました。これは主に開発途上国の貧困や飢餓を救うためのもので、日本のような先進国では広く一般に知られることはありませんでした。しかし、15年の間に飢餓や貧困で亡くなる人が半減するなど大きな成果を上げたことを受けて、次は先進国も含めて地球全体で取り組もうと始まったのが、SDGsなのです。現在は、かつてのように〈環境か経済か〉という二極化の議論では、解決できない複雑な世の中になっています。平和、教育、ジェンダーなど、17の課題を同時に解決しない限り、本当の豊かさは得られない。〈風が吹けば桶屋が儲かる〉ではないですが、すべては連動しており、ひとつの解決が他へ波及するという意識が不可欠です。
河野 解決すべき課題が多様化していますが、それだけ救われる範囲が広がったと捉えることもできますよね。私は、本学のダイバーシティ担当でもあるので、90年代には経済成長や平和がメインだった議論にジェンダーのトピックが加わったことは、非常に大きな意味があると感じています。SDGsでは、17のゴールを2030年までに達成することを目標に掲げていますが、現在の達成率はどの程度なのでしょうか。
松本 毎年発表される国連のレポートでは、50%程度と評価されています。ただ、目標ごとに差があります。再生エネルギーが台頭したことでエネルギー問題が進展した一方、戦争と平和の問題に関しては、かなり後退してしまっている状況ですよね。残りの年数をかけて、すべてのゴールの達成率を限りなく100に近づけることを目指し、これまで以上に努力を続けなければなりません。
課題先進地として解決策を示し、島根から世界の未来を変える
大谷 17の目標達成を同時に進めるのは非常に困難で、どれかを良くしようとすると別の目標に負荷がかかる、ということが頻繁に起こります。この複雑な問題を科学的なデータに基づいて解決モデルを示すことができるのは、やはり大学であると私は考えています。とくに本学のような、文・理・医・教をバランスよく備えた地方の総合大学にこそ、その役割があるのではないでしょうか。なぜかというと、都会から離れていることは一見不利に思えますが、実は中央の影響を受けすぎず、研究の自由度が高いという大きなメリットがあるからです。
松本 島根県は地域のスケールがほどよく、学生の活動や研究成果が松江市や出雲市にすぐ届き、その影響も街の中で実感されやすい点が大きな魅力ですよね。知識を机上の空論とせず、人々の暮らしや現実に寄り添えるという特性があります。大学は、学生が社会に出る前の最終ゲート。ここで意識の高い人を育てることは、SDGsの目標4『質の高い教育をみんなに』にも直結します。世界を動かしているのは人間ですから、一人ひとりの意識が変われば、明日にも平和が訪れるかもしれません。そのための〈人づくり〉こそが、大学の大きな使命のひとつでしょう。
大谷 もうひとつ。島根県は、課題先進地です。少子高齢化、交通・医療の崩壊危機など、日本全体、あるいは世界が直面する課題がすでに表面化しています。昨年、海外出張に行った際に、インドや中国の方から『島根は日本の中でも、少子高齢化が進んでいると聞いている。地域・老年を対象にした医療・看護・福祉の先進的な知見を教えてほしい』とリクエストをいただきました。海外の方も同じ問題意識があるんだな、そして我々と同じくまだ解決策が見えていないんだなと実感しました。人間のアクティビティが全ての基本なので、人が減ると経済活動が弱り、医療が受けられなくなったり、交通が不便になったりと、どんどん消滅の危機に瀕します。島根県から、持続可能な地方モデルを発信できれば、後に続く地域や国々の希望になります。本学には現在、松江キャンパスと出雲キャンパス合わせて約6,000人の学生がいます。多様なバックグラウンドをもつ若者が全国から島根に集まっており、これは少子高齢化が進む島根県にとって非常に大きな知の財産であり、エネルギーの源です。この6,000人の若者の力が地域の皆さんと混ざり合うことで、島根県から解決策が生まれると信じています。
地域の未来を動かす若者の力 大学公認「SDGsユニット」始動

大谷 〈持続可能な未来〉を叶える取り組みのひとつとして、2025年度から『SDGsユニット認定制度』を立ち上げました。地域や学内で、持続可能な社会への取り組みをしているサークルなどを募り、現在14ユニットが大学公認のもと活動しています。循環型農業に取り組む『里山焼かんかね?』、子ども食堂の運営支援を行う『すみれ食堂』、地域の鉄道を盛り上げる『鐵道研究会』など、活動内容は多岐に渡ります。
河野 学生たちは、日頃の部活動やボランティアが、SDGsに繋がっていると気づいていないことが多いのです。それを『あなたの活動は、SDGsのこの目標に該当する素晴らしいものなのだよ』と伝え、そして意識的に取り組んでもらえるように、この制度を作りました。

松本 1月に開催した中間発表会も、非常に熱気に満ちていましたね。市の関係者や市民団体の代表にもお越しいただき、学生たちのモチベーションも飛躍的に高まっていました。まだ活動に取り組んでいない学生からは『今後、ぜひSDGsに取り組みたい』という声が聞かれましたし、私自身も〈地域や企業を巻き込んで、こんなことまでしているんだ!〉と驚くような活動もあり、非常に手ごたえを感じています。個人的には、ここから起業する学生が出てくるのではと期待しています。
河野 どのユニットの発表も本当に素晴らしかったです。あえて言うならば、ジェンダーや多様性に関するユニットがなかったのは少し残念でした。島根県は、若い女性が都会へ出てしまう傾向が強く、女性にとって魅力的な場所になりきれていない側面があります。もっと若い世代が声を上げられる環境を作っていかなければなりません。学生たちの、今後の奮起に期待しています。
大谷 大学公認となることで、学生は自分たちの活動に自信をもって対外的に発信できるようになります。これにより学生だけでなく、地域の方々をも巻き込んで、SDGsへの意識を高めることができます。17の目標を達成するためには〈誰かがやる〉ではなく、全員が〈自分事〉として捉える姿勢が不可欠です。今後は学生の熱量を市民や企業の皆さんに繋げ、現場の課題を一緒に考えたり、若者の柔軟なアイデアをビジネスのヒントにしたりといった連携を深めたいと考えています。市民や企業の皆さまは、ぜひ学生に『こんなことを一緒にできないか?』と気軽に声をかけていただきたいです。
大学は質の高い生活(Well-being)の実現に貢献する場所
研究と地域を繋ぐ島根大学の挑戦
大谷 研究においては、これまでにないような尖った価値を生み出すことが期待される一方、それが地球の限界を超えないようにどうバランスを保つかが、非常に本質的で難しい問題です。例えば、人の健康を助けたり身体をサポートしたりする技術は、そのまま兵士を強くして戦場へ向かわせるといった、軍事転用可能な側面を常にもっています。より良いものを作り、市場に提供するという経済の原理がある以上、こうした流れを止めることは事実上不可能です。たたら製鉄の伝統から今に繋がる、本学が研究の柱に据えている先端金属素材にも、同様の側面があります。だからこそ、人文社会科学系の視点や福祉的な視点を大切にし、大学として限界を超えないバランスの取れた発展のための抑えをしっかりと効かせなければなりません。
松本 そこで重要になるのが、技術者倫理の教育です。日本には、技術士法という法律があり、技術が確立した後に悪用されないか、それが世の中にとってよいことなのかを判断する倫理観を求めています。本学では、技術士補の資格が取得できるコースを用意し、最先端の研究と並行して、学生に対して〈この技術が、人類の持続可能性のために役立つか〉という心構えを徹底して教えるようにしています。
河野 技術がめまぐるしく進歩する一方で、社会格差が広がり、子どもや一人親世帯の貧困がどんどん深刻になっていることも見逃せません。世界幸福度ランキングというものがありますが、日本の順位ってとても低いですよね。みなさんこんなに働いているのに、質の高い生活が送れていない。女性の働きづらさも、改善されていない。果たして、このままでよいのでしょうか。人々の生活に直結する課題の解決は、大学の大きな社会的使命ですし、本学でもたくさんの先生が、研究に励まれておられます。大学が〈偉そうな人たちが集まる場所〉ではなく、誰もが質の高い生活を送れ、Well-beingの実現に貢献する場所であることを、今後もっともっと発信していきたいです。そしてみんなでいっしょに、持続可能な未来を創っていくのが私の理想です。
大谷 学生の活動をSDGsユニットとして大学が公認して見える化しましたが、近く研究者や教職員のSDGsユニットも立ち上げる予定です。『我々はSDGsに繋がる、こんな研究をしています』と積極的に発信し、学内の知を地域の皆さんや企業の皆さんの熱量と掛け合わせたい。そうして、島根から〈持続可能な未来〉に向けた確かな手応えを作り出してまいります。
松本 SDGsは2030年で一区切りですが、人類の持続可能性への戦いは、その後も名前を変えて、ずっと続きます。理想は、SDGsという言葉を使わなくても、誰もが生き生きと働き、自分らしくいられる社会が実現すること。2030年の先には、より人間らしい生きがいを追求する目標が待っているはずです。そこへ繋げるためにも、今をどう生きるかをみんなで考えましょう。
※1.SDGs(持続可能な開発目標)…2015年に国連で開発された持続可能な開発サミットで採択され、2030年までを期限として、世界全体で環境・社会・経済等の持続可能性を実現し、誰一人取り残さない世界を目指して作られた17の国際目標。
※2.MDGs(ミレニアム開発目標)…2000年に国連ミレニアム・サミットで採択され、2015年までを期限として、発展途上国の貧困・教育・保健等の深刻な課題を解決し、人間の基本的生活水準を向上させることを目指して作られた8つの国際目標。直接的なSDGsの前身という位置付け。
(本記事は、広報しまだい63号(2026年4月号)で公開された記事をもとに再掲載しています。)








