公開日 2026.04.01

教員・研究者紹介

島根大学の共同研究 “快適さ”の評価基準をつくる。​

島根大学 ✕ 企業が描く
住宅性能の新たな指標

  • 清水 貴史 准教授
  • 総合理工学部
  • 建築デザイン学科

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日々の暮らしの中で、階段は重要な役割を担っています。近年、階段にも意匠性が求められスタイリッシュな階段が提案されていますが、同時に昇降時の安全性や不快な振動の抑制も考慮されつつあります。そうしたよりよい階段のデザイン提案に、企業と連携して「評価基準をつくる」ことに取り組んでいるのが清水貴史准教授。企業との共同研究によって、研究室の学生と共に、学びと課題解決の両方にアプローチしています。

目次

企業との連携で生まれた実践的な研究

 清水准教授の専門は建築環境学で、特に熱環境や音環境に関する分野の研究に取り組んでいます。大学に着任する以前には公的な試験機関で建物の性能評価を行い、その後、住宅メーカーの技術研究所で研究開発に携わってきました。その経験を活かし、現在は研究と教育・研究成果の社会実装の両面から、より快適で安心な建築環境の実現を目指しています。

 階段などの住宅関連製品を開発・製造するカツデン株式会社との共同研究を行うきっかけは、同社が島根県に研究開発拠点となるR&Dセンターを設立したことでした。カツデン株式会社の担当者と共に、製品開発に関する課題やニーズを共有する中で見えてきたのが、階段製品のデザイン性と安全性・機能性の両立。特に近年、リビングの一部として溶け込むよう、スタイリッシュなデザインを追求することで階段のささら桁が細くなり、昇降時に発生する音や振動の影響が顕在化していました。ただ、これまでに階段の振動の評価方法は十分に確立されておらず、よりよい階段のデザイン提案を目指すカツデン株式会社との議論の中で、階段の安全性や快適性をさらに向上させるという研究テーマが立ち上がったのです。

 この共同研究でさらに特徴的なのは、視認性向上への取り組み。ユニバーサルデザインが求められ、段差を解消する方向にシフトしている住宅の中でも、階段だけは段差をなくすのが困難。そこで、清水准教授は過去の段差視認性評価の研究成果の活用を思いつき、さらに階段の段板に美しい装飾をあしらうことで視認性を高める手法を模索。デザイン性と安全性を両立するユニバーサルデザイン階段の研究として、島根県雲南市に工房を構える組子細工の名工舟木清氏(舟木木工所)の協力のもと、企業と地域の伝統工芸、大学という3者による共同研究がスタートしています。2023年に始まったこれらの研究は、2024年にしまね産業振興財団の研究開発助成にも採択され本格に動き出しました。安全で楽しいデザインの実現を目指し、「つかう人の感じ方」にも注目しながら、研究を進めています。

地域に開かれた、研究者という在り方

 現在、研究室では近年急速に発展するAIを活用した住環境の性能・快適性評価の研究にも着手。住宅に求められる熱的快適性や断熱性能に関する評価、制御を自動化する技術の研究開発も進めています。 加えて、地域とつながる研究も広がりを見せはじめ、これまでに石見地方の伝統芸能である石見神楽の公演会場の音響調査や、東出雲町の特産品である干し柿生産のための柿小屋の温湿度調査といった地域の暮らしや文化に寄り添う研究にも取り組んでいます。

 また、研究に参加する学生たちにとっても、これらの共同研究は実際に現場に赴いての測定や、未だ確立されていない技術・評価手法の提案に、企業や地域の方々と協働で挑むことのできる貴重な機会。研究が“机上のもの”ではなく、社会と密接につながっていることを実感しています。
 今後は、より高度化・複雑化している建築環境への要望にも応用可能な研究を視野に入れているという清水准教授。「企業と共に研究を進めることで、実際に“使える“研究成果を生み出していきたい。学術的な結論だけに終始せず、社会の課題に具体的に応えるような成果につなげたいですね」と語る清水准教授。今後も、地域の企業や行政、文化団体との連携を深めながら、実用的で持続可能な建築環境の実現に貢献していく考えです。

※本記事は、以前に広報しまだい61号(2025年7月号)で公開された記事をもとに再掲載しています。

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