公開日 2026.09.14

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島大生のアイデアを形に。川津バス停改修プロジェクト(連載第2回) ​

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「もっと快適で,もっと利用したくなるバス停へ。」

松江市交通政策課と島根大学総合理工学部の学生たちによる「川津バス停改修プロジェクト」。前回の記事では,川津バス停の現地視察や課題の洗い出し,そして学生たちによる初期提案の様子をご紹介しました。
自由な発想から生まれた数々のアイデアを,学生たちはどのように具体的な提案へと磨き上げていったのでしょうか。今回は,提案の準備から松江市への学生提案に至るまでの,本プロジェクトがさらに動き出す様子をお届けします。

▶前回の記事はこちら
島大生のアイデアを形に。 川津バス停改修プロジェクト(連載第1回) | 島根大学ウェブマガジン ShimaDAY(シマデイ)

目次

アイデアを出す中で,見えてきた課題

 

前回の記事では,プロジェクトに参加する学生たちが,「こんなバス停があったら面白い」「こんな空間なら利用してみたい」という自由な発想のもと,それぞれのアイデアを持ち寄る様子をお届けしました。

その後,幾度もの議論や発表を重ねる中で,学生たちの視点は少しずつ実現可能性を意識した提案へと発展していきます。川津バス停を本当に快適で魅力ある場所にするためには,何を解決しなければならないのか。現地調査や意見交換を通じて課題を整理するうちに,目指すべき方向性が徐々に見えてきました。

そこで学生たちは,各自が得意分野や関心のあるテーマを担いながら,課題解決に向けた検討を進めることにしました。

例えば,雨の日や強い西日の時間帯でも快適に利用できる待合空間,長時間でも過ごしやすいベンチ,夜間の安全性と快適性を高める照明計画など,検討すべき課題はさまざまです。さらに,周辺環境との調和や,敷地の緑化,松江らしい景観デザイン,デジタルサイネージのユニバーサル化など,学生たちはそれぞれの関心や得意分野を生かして検討を進めました。

さらに,中には光や影を利用した演出によって,待ち時間そのものを楽しめる空間づくりを模索する学生も。単に老朽化した施設を新しくするだけではなく,「思わず立ち寄りたくなるバス停とは何か」という問いに向き合いながら,学生たちはそれぞれの視点でアイデアを深めていきました。

シジミと「松江市の歌」から考える「松江らしさ」

 

総合理工学部2年生の黄 佳蓉さんと阿合 ことみさんは,「松江らしさを感じられるバス停とはどのようなものだろうか」という視点から検討を進めました。

その中で二人が着目したのが,宍道湖を代表する特産品であり,多くの市民に親しまれている「シジミ」です。バス停そのものや周辺空間にシジミをモチーフとして取り入れることで,訪れる人に松江ならではの魅力を感じてもらえるのではないかと提案しました。

さらに,「松江市の歌」に登場する「巡る季節を七色に染める」という一節にも注目。バス停空間の色彩計画にそのイメージを反映させることで,市民には親しみを,観光客には松江らしい印象を与えることができるのではないかという新たな着眼点も披露しました。

地域の風景や文化を丁寧に見つめ直しながら,「この場所ならでは」のデザインを模索する二人の提案は,バス停を単なる交通施設ではなく,まちの個性を伝える空間へと変えていく可能性を感じさせるものでした。

環境や景観にも配慮した空間へ。緑化に関する意見交換

バス停をより快適で魅力的な空間にするための検討を進める中で,学生たちは「緑化」というテーマにも着目しました。

しかし,一口に緑化といっても,植物の選定や維持管理,設置環境との相性など,考慮すべき点は少なくありません。そこで今回,学生たちは苔を活用した事業を全国で展開する株式会社オリジモスの皆さまと意見交換を行い,苔の特徴や可能性について学びました。

株式会社オリジモスは,「自然を敬い,共生する生き方」を企業理念に掲げ,苔が持つ美しさや機能性を社会のさまざまな場面で活用することを目指しています。全国各地で苔の生産や研究,製品開発に取り組んでおり,島根大学総合理工学部の清水貴史准教授、シュレスタ・アクリティ特任助教とも連携しながら,苔を活用した新たな空間づくりや価値創出の可能性を検討しています。

意見交換では,緑化素材として同社が開発した苔をシートが持つ環境への適応性,再生力についての説明を受けました。この苔シートは土壌を必要とせず軽量で,他の雑草の繁殖を防ぐ効果が高い一方,壁面などに設置する場合は環境条件を考慮する必要があるとのことでした。

学生たちは説明を聞いたのち,苔に触れながらその特徴を体感しました。手に取って質感を確かめたり,霧吹きで水分を与えたときの変化や生命力を観察。写真や資料だけでは得られない苔の特徴を,学生たちは実際に触れながら確かめていました。
また,「バス停」という公共空間に苔を取り入れることで,どのような効果が期待できるのかについても議論が行われました。利用者に安らぎを与える景観づくりや,松江市らしい自然豊かなイメージの演出,さらには待ち時間をより心地よく過ごせる空間づくりなど,学生たちはさまざまな可能性について意見を交わしました。

専門家との対話を通じて得られた知識や視点は,その後の提案づくりにも活かされていきます。理想的なデザインを描くだけでなく,「実際に設置できるのか」「長く維持していくにはどうすればよいのか」といった現実的な課題にも向き合いながら,学生たちはより実現性の高い提案へと磨き上げていきました。

今回の意見交換は,緑化の手法を学ぶ場であると同時に,地域企業が持つ専門的な知識や技術に触れる貴重な機会となりました。学生たちは苔という身近でありながら奥深い存在を通じて,「自然と共生する空間づくり」について新たな視点を得ていたようです。

いよいよ迎えた,松江市への提案会

8月28日(金)。いよいよ,学生たちが考え抜いたアイデアを松江市へ提案する日がやってきました。

新庁舎となった松江市役所の会議室には,松江市交通政策課の皆さまをはじめ,松江市交通局,一畑バス株式会社,バス停の設計を担う建築事務所の方々や報道機関の皆さまなど,多くの関係者が集まりました。学生たちは少し緊張した面持ちで席に着き,これまでの成果を発表する瞬間を待ちました。

発表を前に,松江市交通政策課の佐藤課長は,「川津バス停は今後さらに重要な交通結節点となる。固定観念にとらわれない柔軟なアイデアを期待している」と学生たちに呼びかけました。

こうして始まった提案会では,「バスを待つ場所」を単に整備するだけではなく,「待つ時間そのものを快適で楽しいものにする」という視点から,さまざまな提案が披露されました。

快適に過ごせる待合空間を目指して

 

建築・空間デザインの観点から発表した総合理工学部建築デザイン学科3年生の松浦 幸美さんは,現地調査を通じて見えてきた課題として,「雨天時に待機スペースが不足していること」「利用者と運転手がお互いを認識しにくいこと」「西日が強く差し込むこと」の3点を挙げました。

これらの課題に対し,建物の軒下空間を拡張するとともに,ガラス面と可動式の木製パネルを組み合わせた待合空間を提案。利用者が日差しや視線に応じてパネルを動かすことで,快適性と開放感を両立できるのではないかと考えました。

 

また,木製パネルを地域住民や学生による作品展示スペースとして活用する案も提案。待ち時間を有効に過ごせるだけでなく,地域と大学をつなぐ場としての可能性も示しました。

松浦さんは,「地域住民の想いを考えて,それをデザインに取り入れることが好きなので,楽しく取り組むことができました」と語り,実際の利用者を意識しながら提案を形にしていく過程が,自身の成長にもつながったと話しました。

光と影が生み出す,新しいバス停体験

 

総合理工学部総合理工学科2年生の長妻 和希さんと山本 朔哉さんは,「待ち時間に小さな発見を生み出す空間」をテーマに発表を行いました。

松江の怪談文化に着目した二人は,待合室のガラス面に妖怪のシルエットを配置し,差し込む光によって生まれる影を楽しめる仕掛けを提案。時間帯によって変化する光と影が,利用者に新たな気づきを与える空間になるのではと考えました。

さらに,シルエットが見える席に設置したQRコードを読み取ることで,妖怪や怪談に関する情報を閲覧できる工夫も提案。待ち時間そのものを地域文化に触れる時間へと変えるアイデアです。

また,バスが接近すると床面の足跡型ライトが点灯し,乗車位置まで利用者を誘導する演出も提案されました。楽しさと機能性を両立させた提案に,関係者からも大きな関心と質問・意見が寄せられました。

 

「松江らしさ」の表現に向けマスコットキャラクターに着目

学生たちが議論を重ねる中で繰り返し話題となったのが,「松江らしさをどのように表現するか」というテーマでした。

総合理工学部建築デザイン学科3年生の松尾 寧音さんと総合理工学科2年生の近藤 いちごさんは,松江市のPRキャラクター「おまっちぇ」に着目。ブロック塀やフェンスなどの外構部分に「おまっちぇ」を取り入れ,バス停へ向かう道のりそのものを楽しめる空間にしてはどうかと提案しました。

おまっちぇが松江城や宍道湖,シジミなどを巡る様子をストーリー仕立てで表現することで,利用者や観光客が自然と松江の魅力に触れられるよう工夫しています。

発表した近藤さんは,「おまっちぇについて調べる中で,自分自身もその魅力を知ることができた」と話し,地域資源を再発見する機会になったことを振り返りました。また,松尾さんは「大人数で一つのことに取り組むプロジェクトは,それぞれが持つ意見も様々で大変なところもあったが,色々な工夫をしながら提案まで進めることができた」と,学年を越えて協力しながら一つの提案をまとめ上げた経験の大きさを語りました。

 

利用者目線で考えたデジタルサイネージ

バス利用者の立場から課題に着目した総合理工学部建築デザイン学科3年生の清水 真菜さんと村上 友菜さんは,現在設置されているデジタルサイネージの改善案を提案しました。

現地で実際に利用した経験をもとに,「色使いが分かりにくい」「遅延状況が把握しにくい」といった課題を整理。背景色や表示方法,文字サイズなどを改善した新たなデザイン案を作成し,利用者が直感的に情報を理解できる表示方法を提案しました。

この発表に対して松江市交通局運輸課の安部課長補佐からは,「利用者目線だからこそ気付ける大変貴重な意見だった」「今後のサイネージ改善の参考にしたい」といったコメントが寄せられました。

 

そのほか,当日出席できなかった学生(阿合 ことみさん,黄 佳蓉さん,三笘 友萌さん,新宅 二皐さん)のアイデアは,清水准教授が代わりに説明しました。

実際の設計につながる貴重な経験に

各グループの発表後には,松江市交通局,一畑バス,設計事務所の関係者との意見交換が行われました。
松江市交通局運輸課の川上課長は,「従来のバス停は『待つ場所』というイメージが強かったが,今回の提案には『待つ時間を楽しむ場所』という発想が多く盛り込まれていた」とコメント。なかでも,光や影を活用した演出や,外構部分に「おまっちぇ」をあしらうアイデアについて,「利用者にとって新たな発見や楽しみにつながる可能性がある」と評価しました。

また,一畑バス株式会社営業企画課の南場課長は,「バスはどうしても遅延が発生することもあり,利用者の皆さまにお待ちいただく場面がある。その待ち時間を有効に活用できる発想が数多く見られ,ワクワクしながら過ごせる空間になるのではないかと感じた」と語り,提案内容への高い関心を示しました。

さらに,バス待ち列の誘導方法に関する提案についても,「自然と整列できる仕掛けは非常に興味深く,今後の参考にしたい」といった意見が寄せられ,学生たちの発想に対して実務者ならではの視点から活発な議論が交わされました。

この度,プロジェクトに参加した学生たちを指導した,清水准教授は「住宅やオフィスなどを対象に設計提案を行う機会は多いが,交通結節点となるバス停を題材に検討する機会はほとんどない。学生たちにとって非常に貴重な経験になったのではないか」と振り返りました。

また,「学年を越えて一つのプロジェクトに取り組む機会も意外に多くない。限られた時間で議論や発表を重ねながら提案をまとめ上げ,さらに自分たちの提案が実際の設計に反映される可能性がある中で,行政や交通事業者,設計者の意見を直接聞くことができたことは,学生たちにとって大きな学びになったと思う」と,プロジェクトの教育的意義についてもコメントしました。

 

発表の最後に佐藤課長は,「すべての提案を採用することは難しいかもしれないが,多くの気付きや学びをいただいた。可能な限り設計へ反映していきたい」と講評しました。


学生たちの柔軟な発想と地域への視点から生まれた数々のアイデア。提案会を経て,プロジェクトはいよいよ具体的な設計段階へと進んでいきます。

今後,川津バス停の基本設計が進められ,令和8年度冬には,設計内容と学生提案の反映状況が報告される予定です。その後,令和9年度から改修工事が行われます。

今回生まれた提案は,実際の川津バス停にどのような形で取り入れられていくのでしょうか。

「ShimaDAY」では,引き続き本プロジェクトの歩みを追いながら,これらのアイデアが実際の空間へと形になっていく過程をお届けします。次回の更新をお楽しみに!

 

ShimaDAYライター
メナ
広島県出身のカープファン。島根大学企画広報課職員。
趣味はカフェイン摂取。「あいほの」さんにご指導賜りながら同じく双子育児に奮闘中。ライブのチケットやswitch2などあらゆる抽選に当たったことがない。たまに剣道をしている。花粉症。

ShimaDAYライター
メナ

広島県出身のカープファン。島根大学企画広報課職員。趣味はカフェイン摂取。「あいほの」さんにご指導賜りながら同じく双子育児に奮闘中。ライブのチケットやswitch2などあらゆる抽選に当たったことがない。たまに剣道をしている。花粉症。

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